2009年7月アーカイブ

 評者自身、20数年間、臨床心理士として病院臨床に携わってきた経験をもつが、我が国の病院で「精神科病棟から日本の未来」を問い直そうという試みがなされていたことを本書で知って、驚嘆させられた。  

かつて、アルコール依存症を装って精神病院に潜入した記者の告発本は目にしたことはあるが、本書はその類の本とは一線を画している。著者は精神科医療の現場で30数年に渡って、精神を傷つけられ、破壊されてきた人々と真摯に向き合い、その復興に向けて斬新な取り組みを実践してきた類い希な精神科医である。ときに真摯な態度で書かれた本は読者に窮屈と退屈を強いることがある。しかし、本書は違う。頁をめくると、そこには読者を釘付けにしてしまうドラマが展開する。舞台となっているのは精神科の病棟である。看護師と患者、医師と患者の熾烈なバトルだけでなく、医師と看護師のリアルなやりとりが描かれている。18世紀のロンドン市民の日曜日は、精神病院見学がとっておきの楽しみだったようであるが、21世紀の日本の読者は、本書を通して精神科病棟の内実を目撃することになろう。

さて、本書のあらましを簡単に紹介するならば、以下のようである。

 本書は三部構成になっている。第一部は「人間精神の復興への闘いー精神病者の独立と解放に向けてー1991年(平成3年)~2007年(平成19年)」と題して著者自身が経営する精神病院での実践が記されている。第二部は「精神科病棟の『虚構性』―岡村昭彦の問いかけと病棟改革―1976年(昭和51)~1990年(平成2年)」と題する若き勤務医時代の実践が述べられている。そして、第三部には「精神科病棟の目指すものー現代世界の非人間的要素と闘う拠点へー」と題して著者が出会って影響を受けてきた人物が紹介されている。時間の流れから言えば、第二部が先で第一部はその後の出来事なのだが、著者はそれを入れ替え構成してみせる。脚本を書くだけでなく、舞台監督をも務め、演劇を精神科臨床の中に持ち込んだ著者である。本書の脚色にあたって、読者という観客を念頭に置かないはずはない。入院患者だけでなく、職員までも動員して四年がかりで公演に漕ぎ着けた様子を第一部にもってきたことは、確かに功を奏している。それによって、第二部に登場する写真家の岡村昭彦氏の一言一句が存在を増しているからである。本書には岡村氏の他にも中村天風氏、玉井袈裟男氏、吉本伊信氏などといった魅力ある人物が登場する。著者は彼らを師と仰ぎ、彼らと一体化しつつ、しかし自分を見失うわけでなく、自己の内部に血肉化していったようだ。

「それにしても栗本先生は、また、よく岡村さんを受け入れましたね。彼のような生き方は、余程、自分を見つめていないと、自分の小さな利益だけを考えてるならできないことだと思う」(p345

診察の場でそう指摘したのは著者の担当する患者であった。精神を病む人の視線は鋭い。本書には鋭くてラディカルな視線で捉えた至言がちりばめられている。日本の未来に関心のある方にはぜひ一読を勧めたい。

 

 「ちゅらかーぎ」というのは、沖縄の言葉で「美人」のことです。
 「ちゅら」というのは、漢字を当てますと「美」「綺麗」という字で書くようですが、元々は「清々しい」という意味です。以前に「ちゅらさん」というNHKのドラマがありましたが、視聴者に「清々しい」気持ちを抱かせるストーリーの展開があったのでしょうか?
 そして、「かーぎ」というのは「容貌」のことです。ふつう「容貌」というとき、外から見える「容姿」のことを指すように思われますが、しかし、沖縄の言葉で「美人」を意味する「ちゅらかーぎ」というとき、外面的な容姿端麗だけの女性とはちょっと違うような気がします。
 というのも、「かーぎ」には、本来、カゲ(影)の意味も含んでおり、表面に出てくる姿、形だけではなくて、内面から滲み出る美しさも合わせたものを言うからです。そこで、「ちゅらかーぎ」と称される沖縄の女性の場合は、外面と内面の両方から醸し出された「美」を備えています。
 外面の美は、お化粧や肌の手入れによって可能かもしれませんが、内面の美しさは、「鬼」とか「悪魔」など各自の中に潜在しているネガティブな面と対峙することによって磨かれるように思われます。つまり、一人ひとりが自分の「影」と向き合う必要があります。自分自身の影としっかりと向き合う方法として、内観には「迷惑をかけたこと」「嘘と盗み」というテーマが用意されているのです。
 したがって、「ちゅらかーぎ」つまり、本当の意味での「美人」は、十代や二十代の若い女性にはなかなか出せないと言ってよいでしょう。年期を経て、人生の辛苦の限りをなめ尽くし、色んな苦労も乗り越えて、「おばぁ」になったとき、本当の女性の美しさは出てくるように思います。沖縄の「おばぁ」というのは、なかなかいい面構えをしていまして、魅力があって、「ちゅらかーぎ」が多いのです。
 「ちむさーに かーぎこーいん」(肝さーに容姿買いん)という諺は、「心が美しい人は、容姿(顔)まで美しく見えてくる」という意味ですが、内観者を見ていると本当にそう思うことがあります。

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