2015年2月アーカイブ

ゼミ生の中には、内観に興味を抱き、内観研究に取り組む者が増えています。その中の一人・森下文さんは、社会人とし大学院に入学以来、一貫して内観研究に情熱を傾けてきました。  

昨年は、日本内観医学会大会においてシンポジスとして表題のテーマについて発表したところ、指定発言者の秋田巌教授(ユング派分析家)より大変な賛辞を頂いただけでなく、「内観医学」編集委員会からも寄稿の依頼があって、さきほどその原稿が完成しましたので、さわりの部分だけ抜粋して本欄に紹介しておきます。

 

森下 文

(奈良女子大学大学院 人間文化研究科博士後期課程  学校心理士)

 

はじめに

他の内観研修所では行われていないようであるが、大和内観研修所では、朝一番の内観面接において、前夜にみた「夢」について尋ねている。夢をみた内観者は「夢」の内容と内観者自身による夢解釈や夢への感想などを語り、その後「夢記録」を記入する。内観面接で前夜の「夢」を話題にするようになったのは、内観に関連する「夢」を見る内観者が多いことに着目してのことである。吉本伊信は「一分一秒を惜しんで内観せよ」と語るが、この言葉は「昼夜を惜しんで内観せよ」ということであり、内観に関連した夢を内観者が見るのではあれば、それは睡眠中も内観しているということにも通じる。内観面接で「夢」をとりあげることもあって内観後の座談会で、内観中の「夢」を話題にする内観者も多い。彼らは集中内観中の「夢」を内観によってもたらされた"特別な夢"と認識し、自らが行った「夢」解釈から得られた夢のメッセージについて語っている。

内観中の夢について最初に注目したのは精神分析家の北見(19821983)である。北見は、自身の内観中に見た夢を逐語記録に残し、それを手がかりに夢の分析と考察を試みた。また、内観中に見た夢が内観者の内的作業を表現し、内観者自身の心に上手く統合され、浸透したケースは真栄城(19952005)によって報告されている。本稿では、内観中の「夢」を手掛かりに内観を深めた研究1集中内観中の「夢」に導かれて内観が深まった事例A子」(森下・真栄城、2012)と、研究2「集中内観参加者の夢見の傾向分析」(森下ら、2014)を元に、集中内観において「夢」を取り上げることの意義について考察を加える

 

研究1―集中内観中の「夢」に導かれて内観が深まった事例A

事例の概要;内観者A子は30代後半の女性であり、専門職として企業で働いている。高齢の姑の介護と仕事を両立させていることによる慢性的な体調不良を抱えていた。40代を目前にして、体力の限界を感じつつも、なんとか仕事を継続していた。20113月、姑の容体が悪化に伴う緊急入院で病院に詰めている時、東日本大震災が起こった。東北地方に住む両親と音信不通となった。数日後、両親の安全確認は出来たが、今後の生活を確保するため両親が関西へ移住したいという話が持ち上がる。A子には兄がいるが、障害があるため自立支援施設で生活している。A子は両親と兄との濃密な関係に葛藤を抱いており、そのような関係から脱したいという思いもあり、両親の反対を押し切って関西の大学に進学していた。その後、関西で結婚したこともあり、実家とは疎遠になっていた。A子は両親の転居に複雑な思いを抱きつつ準備を進めている矢先に姑が死去した。姑の葬儀後、A子はめまい・不眠・食欲不振・一時的な健忘・涙が止まらないなどの症状に襲われる。精神的にも肉体的にも限界を感じ、A子は集中内観に参加すること決意した。2015219日(木)

 

奈良女子大学の文学部は、3つの学科で成り立っており、そのなかに人間科学科という学科があります。その人間科学は、また3つのコースに分かれており、その中の一つに「子ども臨床学コース」があります。本学に赴任して以来、私が所属してきたコースなので、愛着もひとしおです。ところが、学内の事情で20134月に入学した学生が卒業すると「子ども臨床学コース」は閉鎖になります。「総合心理学コース」と合併して「心理学コース」と名称を変えてスタートするわけです。つまり、20153月時点の2回生がコースとしては最後の学生になります。そんな背景を背負って、今年も3回生が企画した4回生を送り出す「追いコン」(総勢40名の参加)が2015212日(木)に大学近くの居酒屋で行われました。ところが、私は1週間前から体調を崩してしまい、ひょっとして参加できないかもしれないと危惧しておりました。私にとっては最後のコース生になるので、無理をしてでも出席しようと思い、何とか1次会だけですが、参加することができました。

その日は、午前中から3回生のプロジェクト演習の発表会と卒業生の卒論発表会がありましたが、学生たちの計らいで、331日付で離任する私のお別れの会まで企画されており、素敵な花束とA3ほどもある特大の色紙を頂きました。2回生と3回生と4回生の総勢31名がハートマークの色紙にそれぞれの思いを込めたコメントが記されていました。それを読んでみると、ゼミの時間や授業中に話した言葉をそれぞれが大切に受け止めてもらっていることがわかり、教員としては望外のうれしさに浸っています。

色紙の中央には、8名の学生によって大小8個の似顔絵が描かれており、8名中6名が祖父のイメージを、わずかに2名だけが父親イメージを投影した絵になっていました。職業柄、ついそれを描画テストとして読んでしまうのですが、なるほどそれぞれの家族歴が見事に表現されている、と思いました。と同時に、私自身は学生たちの視点を通して自分自身がすでに老人の姿になっていたことも痛感しました。老人は、41日付けで京都の佛教大学(教育学部・臨床心理学科)に着任する運びになっています。これを記すのは、2,3の本欄の読者から「奈良女子大学を去られると聞きましたが、次に行かれる大学はどこですか?」という問い合わせがありましたので、本欄にて近況をご報告することにしました。

さようなら、奈良女子大学、グッドバイ、子ども臨床学コース、再見、ゼミ生たち!

内観の維持・促進要素についての一考察

北野 留美¹ 松本 愛弓¹ 蘆立群1 森下文1 真栄城 輝明

¹奈良女子大学人間文化研究科 ²奈良女子大学教授

 

【問題と目的】

 内観の有効性の研究は数多くなされ、1週間で効果の高い心理療法として精神医学・心理臨床・教育・矯正分野等に導入されている。「内観研究」における動向の分析研究(辻田ら2011)によれば、先行研究の多くは医師・研究者によるもので、内観者の視点に着目した研究は殆ど行われていない。内観者の内観認識の詳細な分析は、内観療法の治療構造を再検討するうえで重要であり、内観の効果を促進するためにも必要なことと思われる。本研究は内観者が内観中に影響を受けた内観の要素や内観の自己評価を調査し、内観者にとっての内観の維持・促進要因を明らかにすることを目的とした。

 

【方法】

 大和内観研修所で平成268月~271月の集中内観者39名(男性25人、女性14人)にアンケートを実施し、内観の自己評価と理由、内観を維持・促進した事柄を調査し、内観に抵抗を示した内観者に半構造化面接を実施し、内観を継続できた理由などを質問した。これらの結果を総合し内観者にとっての内観の維持・促進の要因を解明した。調査に際し対象者に本研究の背景と趣旨,倫理的配慮について説明を行い、同意を得た。また、事例は本質を損なわない程度に改変を加えた。

 

【結果と考察】

 内観の自己評価点が高い人は、内観の実施構造の様々な事柄からプラスの影響を受けており、評価点が低い人は逆の傾向が見られた。様々な事柄を肯定的に受け止める心の柔軟性が内観の維持・促進に影響することが示唆された。具体的には、面接者も内観を深化させる重要存在であることが確認された。また、内観は宿泊して行われることもあって、食事も重要であり、料理の味付けや配膳の心遣いも内観者の心を揺さぶり、内観を維持・促進に貢献していることが明らかになった。その他、作務として行われる起床後の掃除など様々な事柄が複雑に関連しあって内観を維持・促進することが示唆された。

当日は、より詳細に結果と考察を報告する予定である。

 

【参考文献】

辻田奈保子、森下文、真栄城輝明;「内観研究」の動向分析―日本内観学会大会の一般演題を中心に― 内観研究1729402011

 

 

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