2015年10月アーカイブ

こころの健康フォーラム2015

主催:奈良県臨床心理士会

会場:帝塚山大学

        日時:11月15日(13時~14時45分)

【講演】

「人間関係」考

―内観の視点から-

                                    真栄城 輝明

(佛教大学・大和内観研修所)

 

【はじめに】

 「山路を登りながら,こう考えた。智に働けば角つ。情に棹ば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

  住みにくさが高じると,安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟ったとき,詩が生れて,画が出来る。

  人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて,越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。」

 これは,夏目漱石が記した「草枕」の一節ですが,人間関係に悩んだ漱石ならではの名文である。当日は,内観の視点から人間関係にまつわる諸問題について考えてみたい。

  

【内観とは】

 「内観」とは,読んで字のとおり「内を観る」ということであり,それはすなわち「自己を知る」ために行う。吉本伊信が浄土真宗に伝わる「身調べ」という修養法から宗教色や苦行を取り除いて開発した自己観察法のことである。

現在では,心理療法としてその効果が知られ,国内では日本内観学会,内観医学会があり,中国や韓国,アメリカ,ドイツ,オーストリアなどでも心理療法や自己修養などに取り入れられている。

 内観には,内観研修所等に1週間宿泊して集中的に行う集中内観と日常生活において行う日常内観とがある。集中内観の方法について説明すると,まず,静かな部屋の畳半畳ほどのスペースに屏風を立て,その中に楽な姿勢で静かに座る。そしてお母さんやお母さん代わりに世話をしてくれた人に対して,「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の三つのテーマについて,小学校の低学年から現在までを3年~5年ごとに年代を区切って具体的な事実を思い出していく。そして1時間半~2時間おきに屏風のところに訪れる面接者に,数分程度で調べたことを報告する。お母さんが終わると,次はお父さん,配偶者,というように自分の身近な人を順に調べていく。

 研修所によっていくらか違いはあるが,5時あるいは6時に起床すると,布団をあげたらすぐに作務としての掃除から始まる。それがすんだら洗面をして軽い体操をしたあと,屏風を立ててその中にこもる。夜9時あるいは10時の消灯までの間,食事,トイレ,お風呂以外は内観を続ける。3度の食事は屏風の中でとる。内観中は,新聞や本を読んだり,テレビをみたりすることはできない。もとより,電話,携帯メールなどもできない。外部との接触を断って,ひたすらに自分と向かい合うのである。

 内観の効果としては,自己中心的な考えしかできなかった人達が,相手の立場に立って物事を考えるようになり,情緒が安定するだけでなく,思いやりが出てくるし,それだけでなく責任感が強くなるので,人間関係が好転する。

さらに,何に対しても意欲が向上するようになり,本来の自己を取りもどして自分らしさを発揮したり,自己の新しい可能性に気がついて,その実現に向けて努力をしたりする。そして,人生の目的や使命を自覚するよにもなる。その結果として,人間関係の不和,非行,不登校,うつ状態,アルコール依存,心身症,ギャンブル依存などの心の問題が解決し,症状が改善するのである。

 

 職場と「きずな(絆)」

科学の発達には,止まるということがあるのだろうか,とりわけコンピューターのそれは目覚ましい。パソコンが家庭にまで普及し,インターネットで外の世界と通信できるようになったことに驚いていたら,今や,企業はイントラネットの時代に入ったという。社内の情報交信をコンピューターを使うことによって自宅に居ながら,あるいは出先での商談が可能になってきた。出勤不要の時代である。それなのに,どういうわけか忙しい仕事の合間を縫って,わざわざ出社してくるサラリーマンがいる。その理由として「家にいても仕事には困らないが,なぜか不安になる。会社にきて,仲間と雑談するだけで心が落ち着くんです」とテレビのインタビューに答えているのが印象的であった。

今や,仕事は家で,会社には心を癒すために出てくる時代になったのである。

科学の進歩は,合理,効率を重視してきた結果,人間にとって大切な「絆(きずな)」を切ってしまうことになった。人は孤独に弱いし,孤立することは心の病に罹り易くなる。

 

 学校と「きずな(絆)」

 不登校はもとより,いじめや非行はさることながら,,学校はアルコールやシンナーでは驚かず,覚醒剤などの薬物乱用が子どもたちを蝕む時代になってしまった。そんな学校に,教師ではない心の専門家としてのスクールカウンセラーの派遣を決めたのは旧・文部省である。平成7年に始まったこの事業は当初3億7千万円の予算で全国の中から154校が選ばれて配属されているが,平成10年には,初年度の約10,33億円の予算を組んで,1,661校への派遣を決めている。そして,平成26年度は,41億円の予算が計上され,23,800校に派遣されている。それほど,学校の問題は深刻なのである。

 

親子関係と「ほだし(絆・馽)」

 馽という字が示すように「ほだし」とは馬の前足を縛って動けないようにすることから転じて,相手を拘束し,支配することを意味する言葉である。不登校をはじめ,子どもの問題に関わっていると,親子関係,とりわけ母親との間に発生するテーマは「ほだし」が圧倒して多い。人間関係における距離は内観においても重要なテーマとなってくる。

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