人生に幸せを運ぶものとは何か

(佛教大学特任教授・大和内観研修所所長)

真栄城 輝明

 【はじめに】

 奈良県断酒会が創立54周年を迎えるにあたり、祝辞を述べる機会を与えられましたので、この場を借りてお祝いを申し上げます。

そこで、何よりもまず、会の発足以来、会員諸氏が日々の精進を重ねてこられたことに心よりの敬意を表したいと思います。

そして、私自身、およそ40年にわたってアルコール問題にかかわってきたひとりの臨床心理士として、また貴会の顧問としての立場から小文を寄せることにします。

 

【人生科学学会に招かれて】

中国に「人生科学学会」というのがあります。2016123日のことですが、中国内観療法学会がそれに加盟することが認可されたというので、北京で発会式があり、講演に招かれたので出席してきました。

1993年設立された学会なので、歴史はそれほど古くはないのですが、中国では、かなり権威のある学会のようで、彼国の文部科学省がバックについており、そこに加盟が許されるためには審査があるらしく、一定の条件を満たしていなければならない、というのです。わが国にも「日本心理医療諸学会連合(UPM)」という学会があり、およそ十五の心理学会や医学会が加盟していますが、加盟学会の数と権威は、UPMとは比べ物にならないという印象を受けました。何しろ学会員が2万人を超すというからです。加盟学会の分野は聞いて失念してしまいましたが、人生の諸問題を科学的に研究する学会が参集しているというのです。中国内観療法学会も漸くその条件を満たしていることが認められたようで、関係者の喜びは一入のようでした。

当日は、学会理事長と大会長だけでなく、中国政府の役人までも開幕式に出席して長いスピーチをしていましたが、政府関係者が学会の開幕式に出席して祝辞を述べる光景は、日本ではあまりお目にかかることはありません。「人生科学学会」の目的は、人民の幸福を追求し、実現することだというので、国を挙げて力をいれているようです。彼国の精神科医によれば、おそらく急激な経済成長の影響でしょう、中国社会では、その陰でアルコール依存やギャンブル依存に陥る人々が増加しており、欧米産の心理療法をいろいろ導入したそうですが、いま一つ成果が見られず、日本産の内観療法に期待が高まっているようでした。

(ちなみに、日本ではまだですが、中国では三年前から内観療法が医療保険の対象として認定されました。)

 

【内観が注目された理由】

周知のように、内観では、自分の人生を誕生から現在までの自分史を振り返りつつ紡いでいきます。集中内観では、一週間をかけて、それこそ食事中であれ、内観の課題以外のことは考えず、自分を見つめることに集中します。まさに「自分の人生を客観的に対象化して観察(科学)する」わけです。すると、幸福な人生と不幸な人生には、大きな違いがあることが見えてきます。

およそ40年間、私が酒害者とかかわってきて見えてきたものといえば、次のようなことでした。

【過度な飲酒は、不幸を運んでくる】

 見出しの言葉は、私自身が断酒会とのかかわりを通して学んだことです。

これまで、断酒会だけでなく、内観やカウンセリングに立ち会ってきましたが、過度な飲酒が原因で夫婦が離婚し、家庭が崩壊したケースに遭遇することは、少なくありませんでした。

これまでの臨床経験によれば、たしかに離婚は、ノイローゼやうつなど心の病と関連していることがわかりますが、よくよく観察してみると、ノイローゼやうつがアルコール依存症をもたらすのではなく、アルコール依存症が最終的にうつやノイローゼをもたらしていることがわかります。つまり、過度な飲酒が家庭を壊し、「不幸」を運んでくるのです。

 そして、これは反面教師と言ってよいと思いますが、長年、断酒会に参加しているうちに「金銭は生活に必要なだけ確保されていれば、それ以上は必ずしも幸せにつながるとは限らない」という事例に数多く接してきました。

そこで、人生に幸せを運んでくるために必要なことは何かといえば、「愛・思いやり・感謝・希望・信頼・寛容さ」などに行きついたのです。

 

【おわりに】

これからの貴会に望むことがあります。

家族や地域社会の人とどうつきあうか、子どもをどう育てるか、気分が落ち込んだ時や慢性の病気にかかった時にどうするかなど、様々な人生の基本的な態度を学ぶ大切な教室として断酒会を発展させていただきたい、ということです。